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愚行録

愚行録

※あとがきに核心的ネタバレがあるので、鑑賞後読むこと推奨。

念願叶って、映画「愚行録」( http://gukoroku.jp/ ) を観てきた。

おもしろかった!!うわーこれはものっすごく好きな作品!!!

と興奮すると同時に、その気持ちを素直に無邪気に書くのが何だかとても憚れる。

おもしろがっていいのか、果たして、自分にはおもしろがる資格があるのかと、自問自答してしまう。

上映時間のほとんどが、殺人事件の被害者の関係者への聞き取り取材で構成されているのだが、人を変え、場所を変え、これでもかというくらい皆ペラペラと饒舌に喋り倒す。

被害者について語るつもりが、勢いあまって、自分自身の罪を告白にしているのに気づいているんだか、いないんだか。

皆一様に淡々と、悪びれる様子もなく、むしろ時に誇らしげに見える瞬間すらある。

誰かの心を踏みにじって、深く傷つけるような行為の数々も、年月の経過とともに、風化し、あいまいになり、都合の良いところだけが残った武勇伝になる。

たとえ、表面上は見えなくなった相手の傷が、本当はずっと癒えることなく残るとしても。

いったい、どれほどの人間が、自分が過去に犯した愚行の数々を全て現状保全したまま、抱えて生きていけるのだろうか。

◇ ◇ ◇ ◇

人柄もよく、誰もがうらやむ幸せを手にした田向夫婦にも、過去に埋もれた、法律では裁かれない醜悪な罪があった。

彼らのように、自分の成功のために、己の利益にならない人間に対して、容赦なく冷酷になれ、利用してしまえる姑息な側面を持っているが、それを決して周囲には簡単に悟られまいと上手に立ち回る”善人”というのは、世の中に大勢いる。

昔は、田向(旧姓:夏原)友季恵の級友・宮村淳子みたいに、その人を(内心僻みつつ)ただただ嫌悪していたけれど、最近は、人を踏み台にすることに何の躊躇いもなくなってしまった彼らの闇にも、思いを馳せてしまう。

田向浩樹は、結局、入社当初本当にやりたいと思っていた仕事はできていないし、 あれだけ女癖が悪かった男が、結婚してすぐにおとなしく家庭に収まるとは思えない(下種の勘繰り)。

あそこまでの愚行を犯して、誰もが羨む家庭を築いた田向浩樹・友季恵夫妻は、本当に幸せを感じていたのか。

もしかしたら、表向きは恵まれていても、田中光子が夢見ていた理想の家庭のように「砂の城」だったのかもしれない。

彼らが二度と話せない今となっては、それは誰もわからない。

それでも、第三者の証言だけで、勝手に語られてしまう恐怖があった。

記者田中に、田向夫妻の愚行を告発する彼らの”被害者”たちは、はっきり口に出しても出さなくても、二人は「命を奪われても当然だった」だと言いたげだ。 

被害者の粗を探すのは、殺人犯を擁護するのと同じで、故人を冒涜する行為だから、彼らの主張に賛同したくない。 

そんなつもりはさらさらないはずなのに、心のどこかで「自業自得」の四文字がチラついてしまった自分に嫌気がさした。

普段ニュースで知るような、自分と全く関係ない事件で、つい安全圏から批評家気取りになってしまう人は少なくないと思う。かくいう自分もそうだ。

当事者ではない第三者の神の視点からの断罪ほど、不躾な愚行はない。

そういう意味では、この文章も、立派な愚行録なのだろう。 

(映画の中の架空の事件についてとはいえど)

本当に己の愚行を背負う覚悟を持った者の口は、岩のように堅く閉ざされている。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

あとがき

すごくおもしろいけど、いろいろ考えこんでしまって筆が進まないパターンの映画が大好きなので、愚行録はとても好みだった。

▽ ここからは完全に余談 ▽  ※ネタバレ注意

個人的には、この映画のキーパーソンは、田中によって”粛清”を受ける宮村(臼田さん)と尾形孝之(中村さん)だと思っている。

彼らの過去に犯した愚行は、他の登場人物、特に田向夫妻のそれと比べたら、かなり軽度なことで、どこにでもいそうなタイプというか、観客は、この二人に一番感情移入できると思う。 

特に、尾形の「理想の夏原さん」にコロッと騙されているのにまったく気づいておらず、掌で転がされている感が、リアルというか、終始だらしなくてイラっとしてよかった。(※最大限褒めている)

しかし、夏原の狡猾さに気づきながら見て見ぬふりをしていた宮村と、夏原さんの裏の顔に気づけず翻弄されていた尾形は、無自覚に、間接的に夏原の片棒を担いでいたのも同じで、田中にとっては、一番憎むべき相手だったのだろう。

それはまるで、暗に、我々観客をも糾弾されているような気分だった。

話は変わって、満島ひかりさん演じる光子の体を包む手の描写が、本当に嫌悪感しかなくて、ゾクゾクしてしまう。最高に秀逸な映像化だと思った。

だけど、その意味を知ると、泣きそうを通り越して、吐きそうになる。

「愛した人と幸せな家庭を築く」という叶えられない夢が、余計にずっしり重く感じられた。

それから、惨劇の現場が一瞬映るのだが(そこまでえぐくない)、刺し方といい、犯行後のシャワーを浴びるシルエットといい、それとなく犯人がわかる見せ方が巧みでよかった。

犯人が分かった後、既出のシーンをもう一回なぞるんだけど、実は、初見で既にあれ?このシルエットっぽくないか?って人がいたんだけど、このシーンにいるわけないかってスルーしてたので、二回目にいると思ってみていると、あっ!やっぱりいたっ!!!ってなって楽しい。

役者全員最高だったけど、女優陣が特によかった。満島ひかりさんはもちろんのこと、市川由衣さんと松本まりかさんが好きなので、うれしい。

最後に、エンディングの音楽が最高なので、エンドロールが終わるまで、席を立たないでほしい。